気紛れDIARY
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クミコの歌には豊潤な果実の味わいがある。

2006年05月10日

 

 時々、私のホームページをのぞいてくださる皆さん、すっかりご無沙汰いたし申し訳ありません。時々、お会いする機会のある友人、朝妻一郎さん(フジ・パシフィック音楽出版会長)なんかには、
「3月13日から更新してませんね」
といわれたりしていました。
 書きたいネタはいっぱいあったのですが、実は近く出版される単行本の校正に追われ、時間がなかったものですから。390ページもあるので、初校、再校と2度見るのに多くの時間を必要としたというわけです。
 その本というのは、ここ数年間に書いたミュージカル関係の原稿をまとめたもので、題して「ミュージカルI love you/ 華麗な舞台の表裏」。 1999-2006年の東京、ニューヨーク、ロンドンのミュージカル界の動きをパノラマ的かつクロニクル風に展望できる内容にしたつもりです。
 日之出出版から6月中には出版されることになるでしょう。
 言い訳はさておき、さっそく本題のほうに。

 

コンサートで歌うクミコ 4月23日、東京国際フォーラムホールCでクミコのコンサートを聞きました。クミコは、銀座の老舗シャンソン喫茶「銀巴里」で歌っていたせいか、ついシャンソン歌手というレッテルを貼られてしまいがちです。確かに越路吹雪の持ち歌だった「愛の讃歌」「ラストダンスは私に」などを受け継いでいることでもあり、シャンソン系と見られているのはいた仕方ないことかもしれません。
 しかし、私は、彼女のことをシャンソンという枠に押し込めてしまうのは惜しい、もっと幅のある歌手だと思っています。
 彼女自身、年齢を隠す気配がないのであえて触れますが、クミコは50歳を超えています。その年齢にふさわしい深みのある感情を歌に盛り込むことができる歌手なのです。そのことひとつとっても貴重な存在ではないでしょうか。
 コンサートの会場は、彼女のおとなの歌にしみじみと耳を傾けるおとなのお客様で大入り満員でした。中年夫婦らしいペアが目立ったのも嬉しいことです。

いちばん最初、クミコの歌を聞いたのは俳優座劇場でのコンサートでした。あれは1993年のことだったでしょうか。一種独特の説得力はあるものの、妙に自己主張が強く、表現がこなれていない。会場が会場だからそう感じたのかもしれませんが、新劇女優がそのまま歌手に転向したような依怙地さが気になり、ついていけませんでした。
 曲目がばらばらで、プログラムに方向性がないのも気になりました。
 それからのち、作詞家松本隆さんとのコラボレーションの時期をはさみ、徐々に個性、歌唱力ともにほぐれていったように思われます。

 あの俳優座のコンサートと比べると、今回の彼女は、なにかこう裃(かみしも)のようなものがとれ、歌唱力もステージマナーも歌そのものも、自由闊達な境地に到達していたといっていいでしょう。
 どの一曲にもこつんとぶつかるしっかりした芯がありながら、しかも歌全体にふくよかさが感じられる。果実だったらナイフを当てたとたん、豊潤な液体が飛び出してくるような気がしました。それほど、どの歌をとっても内容が充実していたということです。

 クミコのレパートリーは、見渡したところ、3種類のジャンルがあるようです。ひとつはやっぱりシャンソン。越路から継承した岩谷時子訳のシャンソンばかりでなく、「わが麗しき恋物語」(作詞覚和歌子、作曲Barbara)のような彼女が独自に開拓したものもある。彼女の個性を強く打ち出すには、もちろんこういうもののほうがいい。
 ふたつ目は日本のオリジナル曲。彼女のために作詞・作曲された曲です。「わたしは青空」(作詞覚和歌子、作曲三木たかし)とか「さよならを 私から」(作詞覚和歌子、作曲萩原慎太郎)とか。「ハウルの動く城」(宮崎駿監督)のために久石譲が作曲した主題曲にクミコの専属作詞家?覚さんが歌詞をつけた「人生のメリーゴーランド」も、この部類に入るのでしょうか。
 3番目はいわゆるカヴァー曲。1973年、広島平和音楽祭で美空ひばりが歌った「一本の鉛筆」(作詞 松山善三、作曲 佐藤勝)ほか。 梓みちよの「こんにちは赤ちゃん」までレパートリーに加えるとは、なんと貪欲な!
 以上、異なった3ジャンルの歌の数々をどううまく混ぜ合わせて一夜のプログラムを作るかが、今後の課題になるにちがいありません。
 今回のコンサートでは幕開けの第1曲が「こんにちは赤ちゃん」だったのですが、私は意表をつかれ、ギクッとなりました。
 歌ったあとの彼女のお喋りによると、「はじめまして わたしがママよ」という母親の呼びかけは、生れてきた赤ん坊にとって人生最初のコミュニケーションなんだそうです。なるほどその通りでしょう。ということを前提に、あるいはそのことを比喩に込めて、その日のお客様への最初のご挨拶のつもりで歌ったのでしょうか。
 そして2曲目が「愛の讃歌」。ディナーが始まったばかりなのに、すぐメイン・ディッシュが運ばれてきたようで、ちょっともったいない気がしないでもありません。

「クミコ・ベスト わが麗しき恋物語」
avex ioより 2006.03.08 リリース
 クミコのコンサートでは、お客様が歌とともに彼女のお喋りを楽しみにしているようなそんな気配が感じられます。歌と同じようにそこには人生経験豊かなおとなの風情が漂っているからです。
 覚和歌子さんが「わたしは青空」の歌詞を書くについては、ヒントとして長崎で起こったあの痛ましい少女殺害事件があったようです。そのあたりの事情に触れるときのクミコの語り口には、過度の感傷を排しつつも深い哀惜の情が滲み出ています。
 彼女は亡き少女の父親の新聞記者と話をする機会があったそうですが、わが身に降りかかった悲劇に黙々と耐えて生きるお父さんの姿に心打たれたということでした。
曲と曲の間で、こういう微妙な話をするのは、よほど虚心坦懐でなくてはできないことでしょう。私は、ほかの歌手にはない彼女の一面をかいま見た気がしました。
 東京国際フォーラムホールCでのコンサートのハネたあと、ロビーでは最新アルバム「わが麗しき恋物語クミコ・ベスト」発売記念サイン会がおこなわれました。250人以上のお客様が並ばれたとのこと、まさに延々長蛇の列でした。

 クミコは遅咲きの歌手です。やっと少し花びらが開いたかに見えます。いっそう円熟の境地を深めることを祈らずにはいられません。

 

2006年05月10日 12:28

コメント

あ、更新ですね。早速読ませていただきました(^^)V

…たまには格調の高いコメントを残したいものですが、
格調の持ち合わせがないものでいつもの調子で失礼します。

投稿者 おだひろこ : 2006年05月10日 22:23

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