2008年のミュージカル・私的ランキング Part1
2009年02月27日
今回は連載の趣向をちょっと変えてみようと思います。朝日新聞文化グループ記者の小山内伸さんと、作家の有吉玉青さんとは、以前から演劇にまつわるお喋りを楽しくさせて頂く友人でした。そのお二人が、年末その年に上演されたミュージカルに対し、私的なランキングをつけて楽しんでいらっしゃると聞きつけたのです。そんな楽しいことを密かにやっているのは勿体ない。そこで今回は、やや時宜を逸したふしもあるのですが、お二人に2008年上演のミュージカルについて選評をお願いすることに致しました。
有吉玉青(左)と小山内伸<『スカーレット・ピンパーネル』の成果>
安倍 お二人は年間、何本くらい舞台をご覧になるんですか?
小山内 ミュージカルだけだと40本ほどで、ストレートプレイなど含めるとその倍くらいになるでしょうか。去年は少なめでしたね。一時は100本を越していたんですが。
有吉 ミュージカルだけでも、近年はどんどん作品数が増えている印象がありますしね。個人的には嬉しい限りですけれど。
小山内 ミュージカルは動員数が大きいですからね。ぴあ総研の調べによると、ストレートプレイ460万人に対し、ミュージカルの延べ観客数は870万人だとか。
安倍 あれは「シルク・ド・ソレイユ」なんかもミュージカルの動員に含めているので、そこはどうかと僕は思っているんですけどね。玉青さんは、どのくらい観るんですか?
有吉 15本くらいでしょうか。ストレートプレイやダンス・日本舞踊など含めると、足を運ぶパフォーマンス自体はもっと多いのですが、ミュージカルに絞ると昨年はそのくらいですね。
安倍 では、あとはお二人のランキングを拝聴したいと思います(笑)。
小山内 といっても、それぞれに持ち寄って楽しむだけで、ランクは二人それぞれなんですよ。今回はたまたま一位は一緒でしたが。
有吉 それに小山内さんは5作を挙げられましたが、私は本数は少ないので3作に留めました。まずは作品を発表してしまいましょうか? 私は、1位は迷わず宝塚の『スカーレット・ピンパーネル』、2位が『サ・ビ・タ』、3位を『トライアンフ・オブ・ラブ』にしました。
小山内 僕は1位から順に『スカーレット・ピンパーネル』、『レベッカ』、『SEMPO』、『ウエディング・シンガー』、『サ・ビ・タ』です。では、続けてランキングの理由なども話していきましょうか。1位は評価が一致していますし(笑)。
有吉 はい、そうしましょう。
小山内 『スカーレット~』はブロードウェイの上演版を、演出の小池修一郎さんがかなり潤色なさいました。題材はフランス革命ですが、宝塚には同じ題材を革命軍側から描いた代表作『ベルサイユのばら』がある。この作品は、革命で処刑される貴族を助けるイギリスの義賊、秘密結社・紅はこべ(=スカーレット・ピンパーネル)の話で、従来の宝塚の正義感とは逆、視点が変わったところがまず面白い。原作にはないルイ16世の救出劇も加え、貴族の側の心情に共感しやすくなるように計らった上手い潤色だと思いました。
有吉 小山内さんはブロードウェイ版もご覧になったんですか?
小山内 残念ながら僕は観ていないんですよ。それから、潤色に加え作曲家ワイルドホーンが実に良い仕事をしている。ワイルドホーン作品の中でも、名曲ぞろいだと思います。それにスカーレット・ピンパーネルのボス・パーシーを演じる安蘭けいの人を煙に巻く軽妙な演技と、その婚約者で妻マルグリット(マリー)役の遠野あすかの歌も素晴らしかった。貴族救出というミッションを負った主人公と、秘密めいた主人公に心揺れる新妻、という謎めいた設定も効果的だと思いました。
有吉 私は夏に、大阪の宝塚劇場へ観に行ったんですが、その時点で「今年のベストワンだ!」と思ったんです。そういうことが、直感的に分かるときってありますよね? 理由としては、小山内さんが仰るとおり、優れたナンバーがあったことと、作品の構成で、楽曲が物語の「鍵」を担っているところが素晴らしいと思いました。
小山内 メインテーマでもある「ひとかけらの勇気」ですよね。
有吉 そうそう。これ、ブロードウェイ版にはなかった曲なんですよね。物語の核となるこの曲が、作曲家へ演出家から依頼され、日本上演のために書き下ろされたことに感激しました。この歌を歌うことで誤解が解けるなど、曲が物語を動かすきっかけになっている。こういう仕掛けは、ミュージカルとして素晴らしいと思います。
俳優で言えば、敵役ショーブランの柚希礼音さんが、安蘭さんと上手くコントラストを出していると思いました。宝塚の男役はみな二枚目で“素敵素敵”に収まりがちですが、柚希さんは陰陽のメリハリがきちんと出せていましたよね。
小山内 ええ「君はどこに」という曲を歌って、かつては同士のマリーにほのかな恋心を持っていたことも匂わせる。敵役の憎めない面を、上手く表現していました。
有吉 シリアスなシーンの合間に、コメディ・タッチの場面を挟み込む構成も良かったと思います。
小山内 ブロードウェイでの初演は1997年。僕がブロードウェイに行ったとき、ちょうどワイルドホーンの三作を同時に上演していたんです。他は『ジキル&ハイド』と『南北戦争』で、彼は「ブロードウェイのロイドウェーバー」なんて言われるほど絶頂期でした。まあ『南北戦争』はヒドイ出来で、すぐクローズしてしまったのですが(笑)。今は『スカーレット~』を観なかったことが悔やまれます。
あとひとつ、ブロードウェイのオリジナル版には2幕冒頭に「オンリー・ラヴ」という曲があるのですが、何故か宝塚版ではカットされ、その曲が昨年帝国劇場で上演された、同じワイルドホーンの『ルドルフ』の一幕終わりに転用されていたんです。理由を知っている方には、是非お聞きしたい。非常に大きな「謎」です。
<明暗・対照的なイメージの2位作品>
安倍 1位作品についての語り口は、やはりお二人ともアツいですね(笑)。では意見の分かれた2位に行きましょうか。
有吉 私は『サ・ビ・タ~雨が運んだ愛』にしました。これは韓国のミュージカルを日本版にして上演したものです。疎遠になっていた兄弟のところへ、結婚パーティー盛り上げサービスの派遣員の女性が家を間違えてやって来る。それが兄弟の和解のきっかけになる、という何てことのない物語で、登場人物3人の小品なのですが、心くすぐられる温もりがありました。
しかもこの作品、韓国では1995年からずっとロングランしているそうなんです。私はそれを知って、ブロードウェイには同じ小品の秀作ミュージカル『ファンタスティック』がありましたし、日本でもそんなロングランがあればいいのに、という思いも込めて2位に選んだんです。
小山内 僕も5位に入れています。ハートウォーミングな良い作品でしたね。
有吉 舞台上にピアノがあって、その使い方が上手いんです。
小山内 そう、兄弟二人ともピアノをやっている設定なんですが、和解する場面で二人が一緒にピアノを弾くんです。ミュージカルでは対立する二人がデュエットをして和解、というシチュエーションがよくありますが、それをピアノのセッションに変えたところも心憎い。
それと、設定が兄の誕生パーティなんですが、導入部にあった料理のレシピを歌い込んだナンバー、あれも面白かったですね。
有吉 この作品は来春再演が決定したようです。ミュージカル関係者も含め、より多くの方に観て頂いて、日本でこんな佳作のロングランができる刺激になるといいですよね。
小山内 再演、楽しみですね。さて、僕の2位は『レベッカ』です。これは原作小説も映画も非常に有名な作品で、既に死んでいる妻=レベッカの影が支配する家へ後妻に入る「私」が、妻の死を巡る謎と、夫マキシムをはじめとするミステリアスなその家の人々に翻弄される、というストーリー。死んだ妻を代弁するような給仕長・ダンヴァース夫人を演じるシルヴィア・グラブが実に良かった。
有吉 確かに彼女の熱演は特筆すべきものでした。
小山内 ミヒャエル・クンツェ&シルベスター・リーヴァイによるミュージカル化なので、曲ももちろん良く、耳に残るナンバーがありました。ひとつは「私」がマキシムに出会うことで、ただのお手伝いさんだったのが、女性として輝き始め、スター性を帯びていくときに歌われる「永遠の瞬間」。序盤で観客を高揚させるメロディでした。
もうひとつ、一幕では「こんな夜に」、二幕では「夜を越えて」とタイトルと歌詞を変えて二度、マキシムと「私」がデュエットするナンバーがありまして。最初はマキシムの抱える秘密によって、夫婦の中がギクシャクする不安を表す歌だったのが、二幕では「私」がその秘密を知った上で夫を支えようとする絆を表す歌になる。
同じメロディの曲を対照的な内容の歌にする手法は、同じコンビの作品『エリザベート』にも見られます。一幕でエリザベートが皇太子と出会い、愛を確かめ合う「あなたが側にいれば」を、二幕で二人の間に埋めがたい溝が出来たときに歌う「夜のボート」に転用するという、明暗は逆の使い方をしているのですが。
有吉 音楽面で面白かったのは、『レ・ミゼラブル』を意識したような、「民衆の歌」をパロディにしたような曲があったこと。「ブリティッシュ・クラブ」という歌ですが、全体に暗いトーンの作品の中に挟まれる、明るい要素として利いていたと思います。
小山内 「私」を演じた大塚ちひろも頑張っていて、2幕の「女は強くなる」あたりからの変化を表現する演技が良かった。恋愛物語というより、女性の自立物語としてみると、多少ご都合主義的なストーリー展開にも目をつぶってもいいかな、と思いましたね(笑)。
有吉 それと、フランク役を演じた石川禅さん。私の中では『エリザベート』の皇太子や『レ・ミゼラブル』のマリウスなど、貴公子イメージの俳優でしたが今回はフランクという実直な人物役で、違った一面が見られたのが面白かったです。ミュージカルが増えていることで、違うタイプの役を演じた俳優に出会い、その魅力の多面性に触れられるのはメリットだなと思いました。(続く)
2009年02月27日 17:16
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