気紛れDIARY
: 安倍 寧 Official Web Site

 東京発信のジャズ・フェスティヴァル東京JAZZ 2008を聞きにいって来ました(8月30日昼の部、東京国際フォーラムA)。この催し、ことしで7回目を数えるそうです。ここに至るまでどのような経緯をたどったのか知りませんが、今回初めて出掛けてみて、かなり壮大な規模を誇るフェスティヴァルであることを実感し、年甲斐もなく結構興奮しました。

N響と共演するハンク・ジョーンズ 世界中のレコード各社の組織を見渡しても、クラシック&ジャズというふうにクラシック音楽といっしょくたにされるほど、ジャズの衰退は火を見るより明らかです。にもかかわらず東京でこんな大掛かりなジャズの祭典が催されるなんて嬉しい限りです。

 私が生まれて初めてジャズに接したのは、敗戦直後の1946~7年あたりでしょうか。以来、一貫して聞いてきた音楽ジャンルは、ジャズしかありません。同時に聞き始めたシャンソン、ラテンは、熱心に聞いた時期もあり、まったく聞かなくなった時期もあり、断続的にしか接して来ませんでした。60年代中ごろのフリー・ジャズには消化不良を起こしたけれど、それ以外はいつの時代もその時々のジャズを楽しんできたつもりです。

 懐旧談はこのぐらいで切り上げ、以下、当日登場した各アーチストの演奏についての寸評に移りたいと思います。
 一番バッター、男性新人コーラスのjammin'Zebに目を見張らされました。いや耳をそばだて聞き惚れたというべきかもしれません。昨年秋デビュウの男性四重唱ですが、アカペラを含め高度な歌唱力を駆使するコーラスグループです。近くBIRD'S EYEでとり上げたいので、きょうはこのぐらいに--。

 二番手はピアノの上原ひろみとタップ・ダンサー熊谷和徳のコラボレーションです。一気に広い会場の雰囲気を盛り上げました。曲は長尺のジョージ・ガーシュウィン「ラプソディ・イン・ブルー」。
 両手を鍵盤に叩きつけるような力の籠もった演奏(もちろん、特色はそれだけではありません)が魅力の上原、速射砲の炸裂音を連想させる激しいリズムを刻む熊谷とは、どこか共通するところがある。
 熊谷のタップダンスには優雅さよりもジャズのグルーヴ感と同質のうねりが感じられます。片や上原のジャズからはどこかブルージーなねばりっ気が漂ってきます。体質的(アーチストとしてのですが)にふたりは一種のブラック的持ち味を身上としている--そんな気がしないではありません。
 それやこれやでふたりの間には、ジャンル、技法を超え、見事なインタープレイが成立するというわけです。

 この公演の立て役者はジャズ・ピアニストの最長老ハンク・ジョーンズでした。ちなみに彼は1918年7月31日生まれ、90歳ですが、背筋がぴしっと伸びていて、実に若々しい。この年になればプレイにはおのずと枯淡の味わいが滲み出るものでしょうが、彼の場合はむしろ年齢を感じさせない瑞々しさのほうが大きな魅力のように思えます。
 とはいえ肩の力の抜けた軽妙なタッチは年輪のしからしむるところにちがいありません。

 ハンク・ジョーンズは3種類のやり方で彼のピアノ演奏を披露してくれました。まず最初にピアノ・ソロ(「イン・ア・センチメンタル・ムード」)。華麗な技巧で聴衆にアピールしようとする姿勢は、これっぽっちもありません。聞き手のほうも過度に酔い痴れるということがない。4千人収容の大ホールなのに、どうしてこんなに居心地のよい距離感が、舞台と客席の間に生まれるのでしょうか。

 続いてベースのジョージ・ムラーツ、ドラムスのビリー・キルソンを加えた三重奏に移ります。曲目は「ウェイヴ」他。リズム隊の応援を得たせいか、ハンクのピアノは少し浮き立ったように感じられましたが、華美になることは決してありませんでした。
 4曲目の「マーシー・マーシー・マーシー」でサキソフォン奏者デイヴィッド・サンボーンが加わります。ハンクは「これまで私が聞いたなかで最高のサックス」と紹介しましたが、私は、トリオとの間に少しばかり違和感を覚えました。
 サンボーンのサックスは、確かに美しい音色なのですが、その美しさがやや硬質なきらいがある。それが人肌に似た暖かみを感じさせるハンクのピアノとしっくり融け合わなかったのです。

 ジャズ界の至宝ハンク・ジョーンズが、この日試みた三つ目のスタイルは、NHK交響楽団との共演によるシンフォニック・ジャズでした(編曲ドン・セベスキー、指揮エリック・スターン)。
 更に一枚超ヴェテラン・ベース奏者ロン・カーターが加わるという豪華な顔ぶれです。 曲目は、この回のテーマ「グレイト・アメリカン・ソングス」にふさわしく、リチャード・ロジャース「私の好きなもの」、ハロルド・アーレン「虹のかなたに」、それから「ポギーとベス」などガーシュウィンものもたっぷり盛り込まれていました。

 率直にいってハンク・ジョーンズを中心に据えた三つの試みのうち、このシンフォニック・ジャズが、いちばん心に響かなかった。正直なところ退屈しました。理由は明白です。ハンクに罪はなく、彼が「グレイト・オーケストラ!」と再三持ち上げていたN響に、ジャズをいっしょにやって大いに楽しもうという遊び心が決定的に欠落していたからです。
 その象徴がコンサート・マスター氏で、舞台の出入り、指揮者との挨拶でもなんと愛敬のなかったこと。これは本業じゃないんですよという態度がありありでした。コンサート・マスター氏を含めてN響楽員にはハンク・ジョーンズ、ロン・カーターへの敬意がどのくらいあったのでしょうか?

 最後に来年に向けての関係者へのお願いひとつ。演奏曲目をなんらかの方法で知らせていただけないでしょうか。事前に情報が得られずパンフレットへの掲載が無理なら、司会者を立てる手もある。一部出演者は自ら曲目紹介をしていましたが、すべて聞きとれるわけではないので映像で補うとか工夫して欲しかった。
 「ジャズに名曲はない、名演奏あるのみ」という至言がないわけではありませんが、曲目がわかれば名演奏の楽しみも何倍かにふくれ上がるでしょうから。

PHOTO:中嶌英雄(Hideo Nakajima)

 

16:15 | コメント (1)

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