気紛れDIARY
: 安倍 寧 Official Web Site

 世界ミュージカル史上、もっとも当たった(正確には今も当たっている)作品は?いうまでもなく『オペラ座の怪人』で、ウエスト・エンドでは1986年10月9日から、ブロードウェイでは88年1月26日から、今なお日々、ロングラン記録を更新し続けています。日本でも88年4月29日、東京初演の初日が幕を開けて以来、劇団四季による公演が、全国各地でほとんど切れ目なくおこなわれてきました。現在も新名古屋ミュージカル劇場で上演中です。

この作品を上演中のアデルフィー劇場 ところで、映画化もされ、世界に冠たるアンドリュー・ロイド・ウェバー作曲のこのミュージカルの、なんと続篇がお目見えしました。題して『Love Never Dies 』。去る3月9日、ロンドン・アデルフィー劇場でおこなわれたワールド・プレミアに出席し、この目と耳でとくと検証してきた仕上がり具合について報告します。

 もちろん作曲はロイド・ウェバーですが、PARTⅡはPARTⅠを超えられないというジンクスを、さてこの続篇はうち破ることができたかどうか?

 『オペラ座の怪人』は、パリ・オペラ座地下に隠れ棲むザ・ファントム(怪人)が、愛弟子の歌姫クリスティーヌ・ダーエとラウル・シャニュイ子爵の恋を泣く泣く許し、自ら忽然と姿を消したところで幕となります。
 あれからおよそ10年、ところは変わってニューヨークのコニーアイランドへ-。クリスティーヌはラウルと結婚し、男の子ギュスターヴを設けています。一家3人がこの地にやって来たのは、クリスティーヌに熱心な出演要請があったからでした。
 一方、ファントムは、Phantasma という見世物で大当たりをとっている興行師として登場します。
 『オペラ座の怪人』から引き継がれた登場人物は、バレエ教師マダム・ジリー、その娘メグ・ジリーぐらいでしょうか。
 物語は、ギュスターヴはほんとうにラウルとクリスティーヌの子なのか、クリスティーヌを招聘したのは誰なのか、いくつかの謎を孕みながら転がり出していきます。

 今回の舞台には観客の頭上に落下して来る巨大なシャンデリアもなければ、オペラ座の地下に広がる湖水もありません。背景がコニーアイランドなのだから、ま、仕方ないか。
 その代わりにきらきらと輝く電飾の光景が目を奪います。この10年間に西欧社会の光源はキャンドルから電気へと大きな変化を遂げたというわけです。

 『Love Never Dies 』の最大の収穫は、ロイド・ウェバー渾身のスコアでしょう。どのミュージカル・ナンバーが甘美だったとか哀切だったとかという段階を超え、全篇これ絢爛たるタペストリーのような趣なのです。
 金糸銀糸をはじめとする色とりどりの糸で織り上げられ、目も眩むばかりといったらいいのか。重厚感に圧倒されそうになると思いきや、軽妙さについ乗せられてしまう。あの手この手で観客の感情に揺さぶりを掛けてくるあたり、さすがミュージカル界の第一人者です。

 ミュージカル・ナンバーとしては第2幕第6場ファンタスマのステージ上でクリスティーヌが絶唱する「Love Never Dies」がひときわ熱烈な印象をあたえてくれます。劇的起伏に富んだ実に美しい旋律で、初日の晩はここで大歓声が巻き起こりました。ただし、目一杯の高音域もあり、第一級のソプラノ歌手でないとこなし切れないでしょう。

 私は、舞台を見ながら、しばしば作曲家は自分のオペラを書きたかったんだなと思わずにいられませんでした。ファントムとクリスティーヌに飛び切りのテノールとソプラノを配したのがひとつの証でしょう。声楽的力量をたっぷりと必要とするような歌手を起用しているということです。ただし、これは両刃の剣で、ふたりの俳優としての演技力に不満が残るという結果を否むことができませんでした。

コニーアイランドを再現した
初日パーティで 筆者(右)
 アンドリュー・ロイド・ウェバーはよくジャーコモ・プッチーニの模倣者といわれます。しかし、私はこの舞台を見てプッチーニの正統的後継者ではないかと思いました。
 20世紀以降のオペラは、現代音楽を用いての実験としては意義深いものがある。しかしエンターテインメントからほど遠い存在になってしまった。この事実に思いを致せば、幅広い観客を惹きつける音楽劇の書き手ロイド・ウェバーを、プッチーニの嫡子と位置づけてもおかしくないと思います。
 そもそもヴェルディやプッチーニの時代には、オペラは、多分に貴族や好事家たちの娯楽ではなかったのでしょうか。もしプッチーニが現代に生きていたとしたら、『Love NeverDies 』のような作品を書いたかもしれませんよ。

 この作品の最大の難点は物語の結末部分でしょう。Phantasma のスターになっていたメグ・ジリーがある人にピストルを向け、その最初に標的にした人ではなく別の人を撃ってしまうのですが、この出来事とメグの心理状態があまりにも唐突で不可解なのです。
 誰が誰を撃ったかは、今後の皆さんのお楽しみのために、ここではネタばらしをしないでおきましょう。もっともすでに発売になっているオリジナル・キャスト盤に付いている詳細なリブレットを見ればわかってしまうのですが。
 台本の不備についてはロイド・ウェバーもわかっているらしく、早速、初日の翌日、カリブ海に飛び立ち、ある島で改定作業に没頭していると聞きました。

 ここで冒頭のPARTⅡはPARTⅠを超えたかどうか?という設問に戻ります。答えはイエスでもノーでもありません。PARTⅠかⅡかという分け方に問題がある。むしろ別ものと見たほうがいいかもしれない。
 といいながら、以下、矛盾したことをいいます。『オペラ座の怪人』を見ていようがいまいが、ひとたび『Love Never Dies 』を見てしまうと『オペラ座の怪人』が見たくなるし、そうすると再度『Love Never Dies 』に戻りたくなる、と-。熱烈なファンはなんども両作品の間を行ったり来たりするのでしょうね。
 英紙サンデイ・タイムズ(3月7日付け)によると、この新作はすでに£9Million (現在の通貨で、12億2400万円)の前売りが出ているという。
ちなみに前作の売り上げは全世界で£2Billion(同じく、2,720億円)。
 ミュージカル・ビジネス恐るべし!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
Love Never Dies オフィシャルサイト

 

20:00 | コメント (4)

« 2010年02月 | メイン | 2010年04月 »