気紛れDIARY
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5月、再演されるブロードウェイ・ミュージカルの傑作を紹介します。ジョニー・デップ主演の映画でも知られる、異色だけれど一見の価値ある名舞台です。

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市村&大竹の二枚看板で見せる異色のミュージカル・スリラー
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 前回(2007年1月)も、市村正親、大竹しのぶの二枚看板をそろえ、客席を大いに沸かせてくれた。腕が立つということでは一歩も引けをとらぬ俳優同士だから、当然といえば当然の成果だったわけだ。再演ではいっそう磨きがかかるのではなかろうか。
 お話の内容からするとかなり異色のミュージカルである。映画化され(監督ティム・バートン、主演ジョニー・デップ、ヘレナ・ボナム=カーター)、日本でもかなりヒットしたから、筋書き、登場人物ぐらい知っているよという向きも多いと思うが、念のために改めて簡単に――。
 時代は産業革命真っ盛りのころ、ところはロンドン。市村演じるスウィーニー・トッドは、無実の罪で15年間も閉じ込められていたオーストラリアの監獄を脱出し、故国に舞い戻って来た。昔とった杵柄で床屋を再開し、憎き悪徳判事の寝首を掻いてやろうと剃刀研ぎに余念がない。
 彼の店は二階にあり、一階では家主のロヴェット夫人(大竹)がミートパイ店をやっている。やがてこの店のパイがおいしいと評判が立ち始める。判事はそうたやすくはおびき寄せられないが、何人もの客が首を掻っ切られ、階下のかまどの前に滑り落とされる。果してロンドンっ子たちはパイのおいしさの秘密に気づいているのだろうか。
 そもそもブロードウェイ・ミュージカルの王道は〝ボーイ・ミーツ・ガール〟である。悲劇に終わる『ウエストサイド物語』とて、その点、例外ではない。『スウィーニー・トッド』の題材がいかに異色か多くを語るまでもなかろう。

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作詞・作曲両方を軽々とこなすブロードウェイの「巨匠」ソンドハイム
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 今、筆の滑るまま『ウエストサイド』の例を持ち出したが、この名高いミュージカルの作詞を受け持ったスティーヴン・ソンドハイムこそ、のちに『スウィーニー・トッド』を作詞作曲した当の人物である。もともと作曲家志望だったが、『ウエストサイド』当時はキャリア不足から作曲までやらせてもらえなかった。
 ブロードウェイの巨匠と呼ばれる現在では、全作品、ひとりで作詞作曲両方を軽々とこなしている。
 『スウィーニー・トッド』以外にも『リトル・ナイト・ミュージック』(映画『夏の夜は三たび微笑む』の舞台化)『日曜日にジョージと公園で』(画家スーラが主人公)などが、日本でも上演されているが、どの作品の音楽も歌詞も知的でどこか皮肉が効いていて、おとな向きのエンタテインメントとして十二分に楽しむことができるものばかり。
 去年10月、ソンドハイムは過去の歌詞を一冊にまとめた『フィニッシング・ザ・ハット』を出版した。作品ごとに本人の短いコメントが付け加えられているのだが、自ら『スウィーニー・トッド』のことを〝ダーク・オペレッタ〟と呼んでいる。人間の暗部に光を当てつつも、心が弾むような楽しさも忘れていませんよという意味だろうか。
 劇的なミュージカル・ナンバーの数々もさることながら、怪奇さを際立たせるインストゥルメンタルの部分もお聞き逃しなく。

(コミュニティ・マガジン『コモ・レ・バ』2011年春号より転載)

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『スウィーニー・トッド』撮影:高梨光司

東京・青山劇場にて5月14日~6月5日
作詞・作曲:スティーヴン・ソンドハイム/演出・振付:宮本亜門/翻訳・訳詞:橋本邦彦/美術:松井るみ/出演:市村正親、大竹しのぶ、キムラ緑子、ソニン、田代万里生、安崎求、斉藤暁、武田真治
料金:S席12,600円、A席8,000円
〔住〕渋谷区神宮前5-53-1
〔問〕03-3490-4949(ホリプロチケットセンター)
http://www.horipro.co.jp/usr/ticket/kouen.cgi?Detail=158

 

13:38 | コメント (1)

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