気紛れDIARY
: 安倍 寧 Official Web Site

「歌と笑いは万国共通…」

2005年08月10日

 

親記事へ戻る

坂本九といえば、例の“九ちゃんスマイル”を思い出す。右に小首をかしげ、ほっぺたを人差し指でつっかえ棒してニコッと笑うあの笑顔だ。ところが、最近の九ちゃんは、そんな愛想笑いでない会心の微笑を浮べている。

 

もちろん、全米をおおった“スキヤキ・ブーム”のせいにちがいない。そのうえ、高名なテレビ番組「スティーブ・アレン・ショー」に出演のため、八月十三日、渡米するとあっては、笑いが止まらぬのも当然といえる。

“スキヤキ・ブーム”とは、説明するまでもないだろうが、彼の吹込んだ「上を向いて歩こう」が「スキヤキ」という題名でアメリカに輸出され、大ヒットしたこと。どんなにヒットしたかは、アメリカの音楽専門誌「ビルボード」「キャッシュ・ボックス」の“ホット100”の第一位を4週間続けたことで、十分に裏付けられよう。

この“ホット100”というのは、全米でヒットしているレコードを、毎週百ずつ選びだして順位づけしたもの。この順位づけは、アメリカ各地のレコード店での売上げ枚数、ディスク・ジョッキー番組で放送された回数、ジューク・ボックスでかけられた回数などのデータをもとに、正確におこなわれる。

ついでながら、「スティーブ・アレン・ショー」は「エド・サリバン・ショー」「アーサー・ゴッドフレー・ショー」とともにアメリカ三大ショー番組のひとつ。アメリカの芸人でも一流中の一流でなくては出演できない。音楽専門誌二誌の“ホット100”で第一位を獲得したこと、それにこの超一級テレビ番組に客演すること、このふたつのお陰で、坂本九は、かなり排他的なアメリカ・ショービジネス界へのパスポートを入手したといってよかろう。

それにしても、九の「スキヤキ」が、どうしてこのような爆発的ブームを呼んだのか。現地からのファンレターを分析してみると中村八大作曲のこの曲が、ロカバラードという体裁をとっていることに最大の原因があると思われる。

ロカバラードとは、ロックンロールのリズムを基調にしたバラード風の曲。アメリカの十代の心を捕らえるためには、ロックのリズムという今日的な刺激が絶対に第一条であるらしい。近ごろ、アメリカのヒット曲は、「ヘイ・ポーラ」に代表されるように、明るくユーモラスで、ちょっぴりセンチメンタルなところがあるという曲が多い。「スキヤキ」も、文句なしにこの系列に入る。さらに、このへんの特色を、九の、♪ウヘヲムイテ、アルコホホウ…。

といったハ行を強調した歌いぶりが、より濃いものにした、といえないだろうか。

坂本九の渡米にさき立って、八月五日、アメリカで第二弾の「支那の夜」が発売されるが、本人がゆくときも「東京五輪音頭」という新曲をたずさえ、東京オリンピックのPRにつとめてくるという。

ところで最近、坂本九は、えらく芝居にご熱心のように見受けられる。五月、明治座の東宝喜劇に出演したと思ったら、六月は、サンケイホールで、永六輔のミュージカル「見上げてごらん夜の星を」に主演した。テレビでも「ぼうや」「男嫌い」(ともに日本テレビ)という劇番組を持っている。現在、仕事の量からいって、芝居と歌の比率は八対二ぐらい。芝居を基礎から勉強してみたいそうだ。

彼の人生の目標は、第一級のボードビリアンになること。「だって、歌と笑いは万国共通でしょう。どこの国へいったって、わかってもらえそうだから….」といって胸を張る。ふだんから、あまり多くを語らない九ちゃんだが、これだけは、きっぱりいった。“スキヤキ・ブーム”以来、夢も国際的になったというわけか。

週刊朝日 1963年8月9日号/無断で転載することは禁止します。

 

2005年08月10日 11:06