KANGEKI対談
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KANGEKI鼎談 ~2011年・日本のミュージカルを振り返って
安倍 寧  小山内 伸(朝日新聞文化グループ)  有吉玉青(作家)

2012年01月26日

 

去年一年の日本のミュージカル界を振り返る恒例の鼎談。今回はよりカジュアルに、ランクづけなしのスタイルでお話を伺いました。個性的な小品やニューヨーク、ロンドン発ではない作品の台頭など、興味深い動きにも言及されました。(2011年12月7日、南青山にて)

 

有吉玉青さん(左)と
小山内伸さん
<ミュージカルの新たな移入経路>

安倍 こうして年末に、お変わりない皆さんにお会いできてとても嬉しい限りです。今回は、さらにフランクにお話いただけるように、ベストテン形式はやめてしまいました。小山内さんと有吉さん、お二人の印象に残る良いミュージカルを、ランクに関わらず3つ挙げていただこうと思っています。ただ、「今日の会では間に合わないものがあって残念」と小山内さんは仰ったんですよね。作品は、カミーユ・クローデルが題材の……。

小山内 タイトルは『GOLD』です。個人的には今年一番に期待していた作品だったもので。

安倍 期待のポイントはどんなことですか?

小山内 まず題材が良い。カミーユは師でもあるロダンと不倫関係にあります。その愛憎だけでなく、当時の社会における女性芸術家の抑圧など芸術と愛、その葛藤のドラマが良く書けているんです。それにフランク・ワイルドホーンの曲も良い。何より期待するのはカミーユとロダンを演じる新妻聖子と石丸幹二。難しい曲が多いのですが、特に新妻さんは非常に歌唱力が高いので、歌いこなしてくれるであろうと。

安倍 なるほど。でも僕はどうもワイルドホーンを信用しきれないところがあるんです。

小山内 どういうところがですか?

安倍 なんと言うか……作品は多いけれどメロディラインにしても、「これぞワイルドホーン!」と言わしめる香り、オリジナリティが薄い印象があるんです。

小山内 音楽のキャラが立っていない、と。ロイドウェバーの旋律のような。

安倍 そうですね、あるいはソンドハイムのインテリジェンス、リチャード&ロジャースのように一度聞いただけで誰もが覚えてしまうキャッチーさなど。では、今挙げたような偉大な作曲家に匹敵する人が、同時代にいるのか、という問題もありますが。ワイルドホーンの「なんでもやりますよ!」的な器用さにも引っかかるんですよね。

小山内 実は明日、ワイルドホーンのインタヴューがあるので、その辺りをツッコんでみます(笑)。

安倍 では、本題に入りましょう。小山内さんからお願いします。

小山内 ランキングはないと言っても、読む方は最初に出るものが印象に残るでしょうから、個人的に良かった順でお話しさせて頂きます。まず、非常に驚かされたのが『スリル・ミー』です。簡素な舞台装置にピアニストが一人、二人芝居のミュージカルで、そこに深く大きなドラマが描かれる。

安倍 アトリエフォンテーヌという小劇場でやったんですよね? 驚きました、あの売れっ子演出家・栗山民也の作品が、意外な劇場で上演されるものだと。

小山内 登場人物は「私」と「彼」という呼称しか持たず、物語は「私」が回想する形で進みます。二人は同性愛の関係にあり、「私」がより強く「彼」に惹かれている。一方「彼」はニーチェの超人思想にかぶれ、自分が超人であることを証明するため犯罪を犯し、ついには少年を殺害するに至る。「私」は「彼」を失いたくないため、犯罪にも嫌々従うのですが、二人の関係性は最後の最後で鮮やかに反転する。そのドンデン返しが実に素晴らしかった。また、殺害する少年を誘い出す語りかけや、犯行がバレそうになる不安を伝える電話のやりとりを歌にするなど、巧みに物語と歌を絡める構造にも感心しました。田代万里生と新納慎也、若手の松下洸平と柿澤勇人がそれぞれ「私」と「彼」を演じるダブルキャスト公演で、僕が観たのは若手。 柿澤は残酷でサディスティックな面がよくでていたし、松下は屈折した心情を非常に陰影濃く演じていました。

安倍 元々はオフブロードウェイの作品ですよね。

小山内 ええ、2005年初演です。

安倍 (パンフレットを見つつ)その後07年に韓国へ渡り、そこで火がついたようですね。ブロードウェイ発韓国経由で日本か……面白いケースですね。

小山内 韓国はミュージカルが非常に盛んですから、最近は日本より移入が速いこともあります。『ビリー・エリオット』もロンドン発ですが韓国が先でした。

安倍 こういう優れた小品がロングランできるようになると、日本もニューヨーク並みになるのでしょうね。お待たせしました、有吉さんどうぞ。

有吉 今年は自分があまり行けなかったこともあるのですが、素朴な疑問をひとつ。いつもに比べてミュージカルの本数が少なくありませんでしたか?

小山内 数は例年と違わないと思いますが、ブロードウェイの新作は一本もありませんでしたね。

有吉 それで少ない印象が、私にはあったのかもしれません。

小山内 帝国劇場が100周年でしたが、そのラインナップでもオランダとドイツ、ロンドンの新作でしたからね。一つの流れではなく、色々なところから持ってきた、という感じで。

有吉 個人的には3月の震災以降気持ちがディプレスな状態でしたが、そんな中で『ニューヨークへ行きたい!!』は楽しかったです。ショウアップされ、しかもメッセージもきちんとある。恋愛モチーフの作品ではよく、女性としての幸せとキャリアを天秤にかけることが多いじゃないですか? でもこの作品では世界的に成功を収めた女性キャスターに対し、母親が「二つとも手に入る!」と言う場面があるんです。その母役の浅丘ルリ子さんが説得力抜群で、自分が女性だからかもしれませんが、とても感動しました。ミュージカルは楽しいだけでなく、何か一つでいいから人生の真理のようなものを伝えてくれると心に残るな、と思いました。

小山内 これはドイツの作品ですが極めてブロードウェイっぽいつくりで、意外な良作でしたね。舞台設定など『エニシング・ゴーズ』に似ていて。

有吉 そうそう、船旅といい作品のトーンにも通じるものがありますね。

安倍 『エニシング~』とは航路が逆でしょ。あれはニューヨークから欧州へ行く話だから。浅丘さんはどうでした?

有吉 可愛らしくて華があって、とても素敵でした。ミュージカルは初出演なんですよね?

小山内 本格的なものは。確かに演技はとても良かった。ただ、歌になると声量が落ちてしまうのが僕は残念でした。

色とりどりのパンフレットです<楽曲・配役共に満足の二作>

小山内 次は、観た方も多いはずですが宝塚版と通常の男女版で公演されたフランス発の『ロミオ&ジュリエット』。

有吉 来年、本家のフランスのカンパニーも来日しますよね。

小山内 はい。これはやはり歌がいい。『ウェストサイド・ストーリー』のように大胆な置き換えは無く、二つ三つ原作にフィクションを加えていますが、そこが眼目ではない。特に感心したのは、ロミオとジュリエットが別空間でデュエットする「いつか」。フランス版では8、9曲目ですが、小池修一郎演出は3曲目に持ってくることで、効果的に主人公二人をフィーチャーする。他にも「キレイは汚い」や「エメ」など非常に素晴らしい楽曲揃いでした。

有吉 確かに一度で覚えられるような歌が沢山ありました。
小山内 「世界の王」という曲も、これはストーリーには直接関係ない曲ですが、モンタギュー家の若者たちを従えてロミオが歌うことで、生の躍動感が伝わり後半への伏線となる。ショーとして必要なナンバーを生かしたところもエラいな、と。

有吉 私は宝塚版だけ観劇したのですが、男女版とどう違うんですか?

小山内 一番大きな違いは、宝塚版には死と愛、二人ののダンサーがいて、両方に見守られた恋という設定ですが、愛のダンサーは小池演出の創出。通常版ではフランス版に忠実に死のダンサーのみです。また通常版には携帯電話やハンバーガーの広告なども劇中に出てきて、現代の時空も混入している設定でした。宝塚版はご覧になっていかがでした?

有吉 宝塚には多くの場合トップの人を徹底的に立たせる、という独自のドラマツルギーがあるじゃないですか。 既存の作品で公演すると、歌などがいつもより多くの人に割り振られるところにちょっと違和感があるのですが、乳母役の方とか、歌の上手い方だったので、それを発揮できるチャンスになって良かったと思いました。

小山内 確かに乳母役の歌唱の比重が高いんですよね。三曲メインで歌いますから、非常に活躍していた。

有吉 歌い上げるようなものが多かったですし。では、次に私は『ビクター・ビクトリア』なんですが、小山内さんはいかがでした?

小山内 良かったですよ。

有吉 作品のテンポがよく、楽しみましたし、主演の貴城けいさんが役によく合っていました。貴城さんは、宝塚退団後も作品に恵まれてますよね。

小山内 ええ、『アプローズ』のイヴや『愛と青春の宝塚』の主役。それから結合双生児を演じた『サイドショウ』も。 僕も本当に楽しんで観ました。売れない女性歌手が売り出しのために男ということにし、かつ女装して演じるという二重に倒錯した性設定で。貴城さんは宝塚では男役をやっていたこともあり、一ひねりした役を上手く演じていた。あと脇役も歌える人が多くて楽しめました。

有吉 彩吹真央さんも良かった。

小山内 岡幸二郎さんと伊東弘美さんも。安倍さんはご覧になりました?

安倍 観ましたよ。演出は浜畑賢吉、『アプローズ』もそうだったね。ミュージカル演出家が少ない折から、役者の経験を生かし、今後も活躍してもらいたい。彩吹真さんも今年活躍だったんじゃないですか? 最近作のタンゴショウ『ロコへのバラード』も含め。

有吉 歌の上手い方ですよね。

小山内 去年は『Pal Joey』も良かったし。

安倍 そうそう、この座談会でも非常に評価が高かったんだ。

小山内 僕は来年一月に上演される『モンティ・パイソンのスパマロット』で「湖の貴婦人」役を演じるのが楽しみです。劇中、もっともメロディアスな曲を歌うんですよ。

安倍 『ビクター~』では二幕の「シカゴのボス」を歌っている彩吹が良かった。大人っぽいセクシーな役もOKだな、と印象に残りました。

<締めは主演の魅力溢れる二篇>>

小山内 三つめは再演なのですが、是非挙げておきたい。音楽座の『リトルプリンス2011』です。今回初めて高野菜々が王子役を演じたんです、彼女は非常に素晴らしい。

安倍 音楽座の人ですか?

小山内 はい。三年ほど前からヒロインを演じていますが、元々ボーイッシュなので王子に非常に合ってる。加えて原作の「星の王子さま」は「大切なものは目にみえない」という、わりと俗耳に入りやすい言葉で有名です。でも本当は「自分から手間をかけた相手にはいつまでも責任がある」という能動的な愛がテーマなんです。その辺をちゃんとすくい取った脚本が手堅いと思いました。
 それに王子を演じる高野は、極限状況にかかわらず無垢であり続ける、その感じが非常によく出ていた。歌も上手くて、星に帰っていく場面の「シャイニング・スター」という歌は圧巻でした。顔の半分くらいを口にして歌っていて、あの場面だけでも感動しました。高野は、その溌剌とした演技で人を勇気づけ元気づける資質を持っていると思います。かなりの逸材で、日本のミュージカル分野でも第一線のレベル。そういう人はしばしば劇団をやめて大劇場に出たりしますが、彼女には音楽座で頑張ってもらい、ミュージカルファンが音楽座に足を運ぶようになればいいなと思います。

安倍 相当な注目株ですね。

小山内 安倍さん、是非聴いてみてください。

有吉 私の最後の作品は『ゾロ・ザ・ミュージカル』です。主演は坂本昌行さん、彼は一貫してミュージカルで頑張っていますよね。来年も『マイワン・アンド・オンリー』に出るんですよね?

小山内 はい。

有吉 さらなる活躍に期待が募ります。

安倍 『マイワン~』は日本人キャストでやったことないですよね?

有吉 そうですね。来日公演だけだったかもしれません。

安倍 アイラ(作詞)とジョージ(作曲)のガーシュウィン兄弟のミュージカルですよね。1985年の来日公演は質の高いもので、演出・振付のサミー・チェーンが主役のパイロットを演じていました。その役を坂本さんがやるわけですね。

有吉 小山内さんは『ゾロ~』をご覧になりました?

小山内 ええ、確かに坂本さんは良かったと思います、特に「ホープ」という曲など。この作品はフラメンコ音楽を使ったのが成功でしたよね。フラメンコ音楽には情熱的な面とメランコリックな面と両方あるので、活気ある場面にも内省的な場面にも合うものがある。ジプシー・キングのジュークボックス・ミュージカルですが、アイデアの勝利だと思います。

安倍 これで出揃いましたね。挙げていただく数は少なくなっても、そこからちゃんと日本のミュージカルの動向が窺え、非常に有意義な時間だったと思います。英米以外、フランスやドイツ、オランダ発のミュージカルが席巻したなど、新たな動きも見えましたし。どうもありがとうございました。

(構成・文 尾上そら)
 

2012年01月26日 00:00

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