ABE MUSICAL SCHOOL
: 安倍 寧 Official Web Site

【第33回】サウンド・オブ・ミュージック
ロジャース=ハマースタインは異国情緒がお好き

2012年02月10日

 

安倍(以下A) 今回から『サウンド・オブ・ミュージック』をとり上げたいと思います。映画化もされ、よく知られている作品です。

Student(以下S) このミュージカルのなかでもっとも有名なナンバー、「ドレミの歌」は音楽の教科書にも載っています、ペギー葉山さんの訳詞で……。

 

A パフォーミング・アーツの一型式としてミュージカルというものがあることを知らない人、仮に知っていたとしても実際の舞台を見たことのない人でさえ、この「ドレミの歌」は歌える人が結構多いんじゃないでしょうか。
 こういう強力なナンバーを抱え持っていると作品自体の知名度もぐーっと上がります。

S 世間一般にはその通りだと思います。でも劇団四季のレパートリーのなかでは異色な感じが否めません。なぜでしょうか?

A 端的に云って初めてのロジャース=ハマースタイン・コンビの作品だからでしょう。
 四季の海外作品は、主として一九七〇年代以降、ブロードウェイ、ウェスト・エンドで上演されたヒット作のなかから選び抜かれたものが多い。しかし、旧作でも名作はどしどし上演すべきですよ。とくにロジャース=ハマースタインが生み出したような古典はね。
 今、私はふと古典と口を滑らせてしまいましたが、古典が存在するほどミュージカルは古い歴史を持っているわけではありません。年代順にヒット作を記述した「BROADWAY MUSICAL SHOW BY SHOW」でブロードウェイ最初のヒット作として登場するのは、一八六六年作の『ザ・ブラック・クルック』ですから。
 今日、私たちが接している劇と音楽とダンスが混然一体となった舞台ということでは、二七年の『ショウ・ボート』をもって第一作としても不都合はないと思います。

S そのあまり長くないミュージカルの歴史のなかでもロジャース=ハマースタインの作品群は燦然と輝いているわけですね。

A もちろんです。ちなみにロジャース=ハマースタインとは、作曲リチャード・ロジャース(一九〇二〜七九)、台本・作詞オスカー・ハマースタイン二世(一八九五〜六〇)コンビのことを意味します。
 このふたりの素晴らしい才能の持ち主が共作したのは、四三年の『オクラホマ!』から五九年の『サウンド・オブ・ミュージック』に至るわずか十六年くらいのことでした。
 その間、生み出したヒット作品は、今、挙げた二作のほかに『回転木馬』(四五)『南太平洋』(四九)『王様と私』(五一)などがあります。
 これら五作品はすべて日本で上演されましたが、上演されていないものでは『フラワー・ドラム・ソング』(五八)を忘れてはなりません。サンフランシスコのチャイナ・タウンが背景ですが、戦後日本の女性ジャズ歌手ナンバー・ワン、ナンシー梅木が主演をつとめているからです。このときは本名のミヨシ・ウメキの名前で出演しています。写真でお見合いをし、中国からアメリカへやって来る若い娘を演じました。映画化されたときも同じ役をやり評判になっています。

S オリエンタル・カラー濃厚なシチュエーションですね。ロジャース=ハマースタイン・コンビは異国情緒に関心が高かったのでしょうか。『サウンド・オブ・ミュージック』もオーストリア、それもチロル地方ですし。

A いいところに気づきましたね。
『オクラホマ!』は、アメリカ国内とはいえ中西部が舞台で登場人物も農耕、牧畜に勤しむ開拓民たちです。異国情緒とは云えないまでも、ローカル・カラー満載なのは間違いありません。
『南太平洋』は、第二次大戦下の南の離れ小島での恋物語で、ヒロインはアメリカ海軍の看護婦ですが、相手の男性はフランス人です。『王様と私』は云うまでもありませんよね。十九世紀末のバンコクを舞台にした国王とイギリス人家庭教師の一大ロマンスです。

S  『回転木馬』が唯一の例外ですか。

A 劇の設定は一八七三〜八八年のニューイングランドの漁村ということになっています。しかし、もとネタはハンガリーの劇作家フェレンツ・モルナールの『リリオム』です。作り手たちは、まず原作の舞台ブダペストに惹かれたのかもね。

S  『サウンド・オブ・ミュージック』のベースになっているのは、ドイツ映画『菩提樹』(五六)だと聞いています。

A その通り。原題『Die Trapp-Familie』、すなわちトラップ一家です。オーストリアの名門貴族のひとりフォン・トラップ男爵、彼と結婚した修道女マリアが、ナチスの迫害から逃れるべく、七人の子どもたちとアメリカ亡命を果たすという物語です。つまり『サウンド・オブ・ミュージック』の原型にほかならない。
 作曲家のリチャード・ロジャースは、自伝「Musical Stages」(七五)を残しているのですが、それによると、劇化のいきさつはこういうことらしい。ミュージカル女優のメアリー・マーティン、彼女の主人でプロデューサー業のリチャード・ハリデイ、彼と同業のリーランド・ヘイワードがやって来て『菩提樹』を劇化したい、ついてはロジャースとハマースタイン二世に一曲書いてくれないかという。
 一曲というのは、彼等三人は普通の芝居にしたかったんですね、ミュージカルではなくて……。
「オスカーと私は映画を見て感動的な舞台になり得る素材だという点では納得した。しかし、彼等の考えには同意できなかった。劇中、トラップ一家が実際に歌った歌を使いたいというのなら、一向にかまわない。しかし、それに一曲だけ追加したら不調和を招くに決まっている。なぜ新作ミュージカルにしないのか?」
 ロジャースはハリデイとマーティン夫妻にそう云ってやったそうです。
 もちろん夫妻だってロジャースとハマースタイン二世がミュージカルに仕立て上げてくれるのなら大歓迎だった。しかし、ふたりは先ほどちょっと触れた『フラワー・ドラム・ソング』に掛かり切っている最中で、一年先まで身動きがとれない。そう告げると、
「彼等からこれ以上嬉しいことはない返事が返って来た。結構です、待ちますから、と」。

S もし最初の企画通り歌入り芝居で上演されたら、失敗作に終った可能性もあるわけですね。

A ロジャースは、ミュージカル化に当たって、これは実話なのだからすべて事実に即し、余計な枝葉はつけ加えないことを肝に銘じたそうです。またこうも云っています。
「このような物語は情緒たっぷりに描かなかったとしたら、誤りを犯すことになる。ただし、なにかが過剰なのは害になる。感情的になり過ぎるのも華美であり過ぎるのも居心地悪い。しかし、感情は正直に吐露したほうがいい。こういうことはずっと演劇の重要な要素であったのだ。私はこう確信する、折に触れ子どもや家庭、自然と心を通わせることの出来ない者は、不幸にも人間失格だと」。
 この宣言に『サウンド・オブ・ミュージック』という作品の本質が見え隠れしているように思えます。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
撮影:阿部章

劇団四季会報誌「ラ・アルプ」2月号より

 

2012年02月10日 14:26

コメント

コメントをどうぞ。




保存しますか?

(書式を変更するような一部のHTMLタグを使うことができます)