ABE MUSICAL SCHOOL
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【第37回】『アスペクツ オブ ラブ』(Ⅰ)
宝石箱のような名作の誕生まで
十年の歳月がかかった

2012年06月11日

 

安倍(以下A) ことしのブロードウェイは、『ジーザス・クライスト=スーパースター』と『エビータ』の新プロダクションが開幕し、一九八八年一月からロングラン中の『オペラ座の怪人』とともに、ロイド=ウェバー・ミュージカルが三本併走することになりました。

 

Student(以下S) 劇団四季では常にどこかで『キャッツ』『オペラ座の怪人』が上演されている上、『ジーザス』や『エビータ』もよく再演されますから、三本並ぶのはしょっちゅうです。
 今回も『アスペクツ オブ ラブ』が始まったので、ロイド=ウェバーもの三作品の競演(饗宴?)です。ロイド=ウェバーと劇団四季の縁の深さでしょうか。

A それもあるけれど、ロイド=ウェバー作品には観客にアピールする力強さがそれだけ漲っているということです。今回のブロードウェイでの三本並立という実情を目の当たりにするにつけ、彼の音楽に潜む普遍的な魅力に思いを致さずにいられません。

S 数あるロイド=ウェバー・ミュージカルのなかで『アスペクツ オブ ラブ』はどういう位置付けになるでしょうか。その音楽的魅力はどの辺にあるのか、とか……。

A それらの事柄を徐々に紐解いていきたいと思うのですが、まずひとこと。このミュージカルは、素材、脚本、音楽すべての面でメルヘン的でもないしファンタジー的でもない。あらゆる面でリアリスティックです。
 リアル、でも極めて美しいのです。
 とくに音楽は、登場人物のその時々の心理に即して作曲されているのですこぶる繊細です。単に繊細なだけではなく、大胆な飛躍もある。
 いや、こういったらいいのかな。その繊細さには大胆さの裏付けがあるし、その大胆さには繊細さの裏付けがある、とでもね。

S 安倍さんの評価は随分高いんですね。

A はい、そうです。『アスペクツ』のロイド=ウェバーの音楽にあるのは、すこぶる上質な甘美と哀愁です。一度よりは二度、二度よりは三度、繰り返し聴いたほうが、宝石にでもたとえたい輝きと煌めきを感じとることが出来ると思います。
 そうだ、『アスペクツ』は〝音楽の宝石箱〟ですよ。そこにはダイヤモンド、ルビー、エメラルド……さまざまな宝石がいっぱい詰まっている。

S 登場人物が老紳士から少女まで多彩です。そして、それぞれの人物が劇中で年齢を重ねていく。登場人物を宝石にたとえるとしたなら、その状況々々でひとりひとりが異る輝きを放つ……という解釈がなり立つかもしれませんね。
 色とりどりの登場人物のなかで格別光り輝くのは、ヒロインのフランス人女優ローズでしょうか。彼女がダイヤかな。

A どうぞ好き勝手に解釈なさい。ここでちょっと話題を変えますよ。
 先だってブロードウェイの『エビータ』のプレイビル(観客に無料で配られるプログラム)を見ていたら、「ロイド=ウェバー氏の帰還」というインタヴュウ記事が載っていてね、これがとても面白かった。「帰還」というのは、当然、ブロードウェイでの時ならぬ彼の作品の三本併走を意味するものだと思いますが……。
 この記事のなかで彼は、「常に新作ミュージカルのねた捜しをしているけれど、興奮させられるようなものが見つからないし。映画音楽をやりたいんだけれど、誰も頼んで来ないし」とぼやいているんです。

S はあ? 常に多忙な作曲家だと思っていましたが。

A このくだりを読んで、ふと私は『アスペクツ』の企画が彼に舞い込んだときのいきさつを思い出しました。

S 原作は小説ですよね、イギリスの作家デイヴィッド・ガーネット(一八九二~一九八一)が書いた……。ガーネットは「動物園に入った男」とか「狐になった人妻」とか題名からして奇妙な作品で有名です。

A 日本でもガーネット傑作集全五巻(河出書房新社)が出版されているくらい著名な作家なのです。

S ロイド=ウェバーがこの小説をもとにミュージカルをと考えついたのは、どんないきさつでいつごろのことなのでしょう?

A ロンドンでの初演は一九八九年五月十七日から始まったのですが、陽の目を見るまでには紆余曲折があったと聞いています。
 そのロンドン公演からさかのぼること十年前の一九七九年に、作詞家のティム・ライスの友人で映画関係のとある人物が、ティムとアンドリューのもとに持ち込んだ企画のようです。
 あのころは、ネタ不足を嘆く現在のロイド=ウェバーと違い、彼のもとにいろいろな企画が持ち込まれていたのかも。

S ということは映画化の企画としてですよね。
 年齢、国籍を超えたさまざまな登場人物が入り乱れる物語は、ミュージカル仕立てだとしてもむしろ舞台より映画向きの素材という気がするのですが。

A 確かに。

S 映画化の話が持ち込まれたのが七九年ということは、『エビータ』初演の七八年の翌年です。『エビータ』が開幕してさほど月日がたっていないわけですから、ティムとアンドリューの仲もそう悪くなっていなかったと思われます。

A 彼等が仲違いするのは九〇年代に入ってからだものね。

S このふたりで『アスペクツ』を作ったとしたら、今あるこの作品とはまったく違う仕上がりになっていたことでしょう。

A うん、それはなかなか興味深いポイントを突いて来たな。今あるかたちの『アスペクツ』の作詞家はチャールズ・ハートとドン・ブラックだもの。
 ティム・ライス自身恋多き男なので、この素材にはむしろふさわしい。

S ティムとアンドリューはこの企画について熱心に話し合ったのでしょうか。

A 映画の話はいつの間にか消えてなくなってしまったけれど、むしろ舞台化の可能性について検討したらしい。
 Kurt Gänzl著「The Complete Aspects of Love」という本を参照すると、彼等は、『ヨセフと不思議なテクニカラーのドリームコート』のような現代的寓話でもない、『ジーザス・クライスト=スーパースター』のようなパンチの効いたロック・オペラでもない、更に『エビータ』のようなドラマ性の高いオペラ的ミュージカルでもない、新しい方法を模索していたということです。

A ティム・ライスとのコラボは遂に稔らなかったけれど、七九年から八九年ですから、原作の小説の人物たちは、十年間も作曲家の頭のなかで生き続けていたという計算になります。

A 先ほどのロイド=ウェバーのインタヴュウ記事に戻りますが、ミュージカルのねたは捜してもなかなか見つかるものではない。幸い『アスペクツ』のように天から授かっても、発酵に時間がかかります。

S ロイド=ウェバーさんが、今、映画音楽をやりたいのなら、映画「アスペクツ」を自分でプロデュースしたらいい。優れたミュージカル・ナンバーもそろっているし。

A おッ、いいアイディアかも。

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撮影:上原タカシ

劇団四季会報誌「ラ・アルプ」6月号より
劇団四季公式サイト

 

2012年06月11日 20:09

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