ABE MUSICAL SCHOOL
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【第38回】『アスペクツ オブ ラブ』(Ⅱ)
熟成したワインの味と香りを
お楽しみを

2012年07月09日

 

Student(以下S) 前回、『アスペクツ オブ ラブ』について、まず登場人物が多彩な点で、異色のミュージカルだというお話がありました。

 

安倍(以下A) 一組の男女が恋の成就に向って邁進するボーイ・ミーツ・ガールの物語ではないのです。かといって終着駅は恋の破局と知りながら突き進むという悲劇とも異ります。
 まさに題名通り「愛のさまざま」(一九五七年、新潮社より刊行された橋本福夫訳の翻訳本の題名)なのです。
 念のため主な登場人物をひと通り挙げてみてください。

S はい。青年アレックス、叔父で英国貴族のジョージ、叔父がアレックスから奪ったフランス人女優のローズ、ジョージの愛人でイタリア女性の彫刻家ジュリエッタ、ジョージとローズの間に生まれたジェニーでしょうか。

A 物語の時間経過が十七年間に及ぶことも舞台劇としてはかなりユニークでしょうね。
 フランス演劇の基本原則となっているといわれる「三一致の法則」というのがあるでしょう。理想のドラマは、一日のうちにひとつの場所でひとつの出来事が完結するという形態をとっていなくてはならない、とする法則です。
『アスペクツ』は明らかにそれに反しているわけです。

S にもかかわらず、私たち観客はさほど不自然なものを感じません。なぜでしょう。

A 音楽の力が働いているからです。しかもアンドリュー・ロイド=ウェバーの音楽が並じゃない。すべすべした絹織物の光沢がある。

S 前回のたとえは宝石でした。今回は絹ですか。

A こらっ、ちゃちゃを入れてはいけない。『アスペクツ』の音楽的魅力を語るのに、ない想像力をふり絞っているのですから。
 ところで、『アスペクツ』の物語性の特色は、異った国籍、個性的なキャラクターを持った登場人物たち、彼等の織りなす複雑な人間関係にあります。その人間関係が繰り広げられる時間的経過もまた十七年の長きに及ぶ上、次々と劇的な出来事が起こる場所も、パリ、モンペリエ、ポーなどフランス各地、イタリアのヴェニスと転々とします。
 以上の事柄がしっかり頭に入っているといないとでは、このミュージカルを楽しむ上で大きな開きが生じるはずです。

S とくに十七年間という時間的経過があればこそ、青年アレックスの成長物語的な側面をもおのずと描き出すことができたわけですね。

A いや、このミュージカルには実に多様な側面があると思います。原作の新訳本(ガーネット傑作集Ⅱ、河出書房)が出版されたおり、訳者の新庄哲夫氏が付記された〝あとがき〟から引用します。色とりどりの恋模様を理解するのに格好の解説だと思われるので……。
「ここで語られる『男女関係』を腑分けしてみると、性の目覚め(ジェニー)、性愛の昂揚(アレックス、ローズ)、性愛の自己目的化(ローズ)、性愛の変質(ローズ、ジュリエッタ、アレックス)、性愛の衰弱(サー・ジョージ)というはなはだ欲張った構図になるでしょうか」(小説ではアレクシス、アレックスではない)。

S 新庄氏のおっしゃっていることは原作の小説についてですが、そっくりミュージカルについても通用すると考えていいのでしょうね。

A はい。人間関係において原作にこれほど忠実なミュージカルは希ですから。

S 原作から受け継いでいる恋模様とはいえ、これほど一風変わった恋愛がいくつも登場するミュージカルは、あとにも先にも見当たりません。

A アレックスとローズ、ジョージとローズ、ジョージとジュリエッタ、アレックスとジェニー、アレックスとジュリエッタ、どのカップルをとっても年齢が離れていたり、あるいは人の恋人を奪ったり、危険な香りがつきまとう。とくに全篇の主軸となると考えられるアレックスとローズの場合は、女性のほうがずっと年長です。

S 十五歳のジェニーと三十四歳のアレックスの関係なんて危くて見ていられない。若者同士の一途な純愛とはおよそ無縁のミュージカルなのですね。

A そういう誰にでも受け入れられる物語ではないにもかかわらず、ロイド=ウェバーはミュージカル化をよく決意したものだと驚かされます。
 前回、お話したように、ティム・ライス経由でロイド=ウェバーのもとにデイヴィッド・ガーネットの小説が持ち込まれたのは、一九七九年でした。彼は四八年生まれですから三十一歳のころのことでしょう。その年齢でこういう物語に興味をそそられたというのは、若くしてかなり成熟した人物だったにちがいない。
 だって、この物語には人間の生と死、その間にある青春、盛年、老境のすべてが盛り込まれている。恋愛も異性愛もあれば同性愛もある。ちなみにガーネットがこの小説を発表したのは老齢に入った六十三歳のときだそうです。

S ロイド=ウェバーが最初にこの小説を読んだときは確かに若かったでしょう。しかし、それからミュージカルが完成するまで、十年間の歳月が流れたということでした。その間、作曲家自身も稔りある三十代を送り、人間的に成熟したと思われます。

A そう、間違いなく彼の人間的成熟がミュージカルにも反映しているはずです。良質なワインにも似た熟成感がこの作品の特色になっている。音楽から芳醇な香りが漂って来ます。
『エビータ』以降『サンセット大通り』までの十年間は、この作曲家にとって実に豊穣そのものの期間でした。その間に彼の代表作がほとんどすべて出そろうのです。
 いいですか、『キャッツ』(八一)『ソング・アンド・ダンス』(八二)『スターライト・エクスプレス』(八四)『オペラ座の怪人』(八六)。
 そして純粋クラシック音楽の『レクイエム』(八五)も世に問うています。
 一九八〇年代というのは、彼が三十二歳からの十年間に当たります。その間、彼は『アスペクツ』を決して忘れていなかった……。そうそう、興味深いエピソードをひとつ。
『キャッツ』の稽古たけなわのころといいますから、八一年四月と推測されます(『キャッツ』のロンドン公演初日は同年五月十一日)。稽古場でロイド=ウェバーが演出家のトレヴァ・ナンに原作の小説をぽんと渡したというのですよ。

S 『キャッツ』の次が『アスペクツ』という可能性もあった……。

A ロイド=ウェバーは、『キャッツ』のあと『アスペクツ』と『スターライト・エクスプレス』と両方のミュージカル・ナンバーをいくつか試作して友人知人に聴かせたけれど、蒸気・ジーゼル・電気機関車の競争という派手な素材のせいか、誰もが『スターライト』に興味を示したそうです。
『アスペクツ』は十年の歳月を要した難産だったからこそ、名作足り得たのです。

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撮影:上原タカシ

劇団四季会報誌「ラ・アルプ」7月号より
劇団四季公式サイト

 

2012年07月09日 00:00

コメント

先日、メールさせていただきました岡本瑛祐です。
本日、メールではありますが質問をさせていただきたいと思いメールさせていただきました。よろしくお願いいたします。

質問の内容はこちらです。

1、安倍さんおすすめのミュージカルはありますか?

2、"The Sound of Music"がどうしてこんなにも世界に親しまれる作品になることができたと思いますか?

3、私は幼いころから母に連れられて劇団四季のミュージカルを観てきました。特に毎年行われてNHKでも放送される”心の劇場”と題したファミリーミュージカルは毎回観ています。私はこのようにミュージカルを通して色々なことを学び、そして、ミュージカルを教育に取り入れることは素晴らしいことだと思います。これからもこのようにミュージカルをミュージカルを教育の一部として使ってほしいと思います。安倍さんはこれからのミュージカルはどうあるべきだと思いますか?

お時間がございましたら返信よろしくお願いいたします。


所属 麗澤中学高等学校 高校 三年I組 岡本瑛祐
住所 〒130-0011 東京都墨田区石原1-41-10
電話番号 090-2639-0776
PCメールアドレス mor1tz.tot0521@gmail.com

投稿者 岡本瑛祐 : 2012年08月21日 10:18

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